ISO45001:2018「6.1 リスク及び機会への取組み」の解説

ISO45001:2018 6 計画
6.1 リスク及び機会への取組み

6.1.1 一般

 労働安全衛生マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1(状況)に規定する課題,並びに 4.2(利害関係者)及び 4.3(労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲)に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a)労働安全衛生マネジメントシステムが,その意図した成果を達成できるという確信を与える。
b)望ましくない影響を防止又は低減する。
c)継続的改善を達成する。

 組織は,取り組む必要のある労働安全衛生マネジメントシステム並びにその意図した成果に対するリスク及び機会を決定するときには,次の事項を考慮に入れなければならない。
 - 危険源(6.1.2.1 参照)
 - 労働安全衛生リスク及びその他のリスク(6.1.2.2 参照)
 - 労働安全衛生機会及びその他の機会(6.1.2.3 参照)
 - 法的要求事項及びその他の要求事項(6.1.3 参照)

 組織は,計画プロセスにおいて,組織,組織のプロセス又は労働安全衛生マネジメントシステムの変更に付随して,労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果に関わるリスク及び機会を決定し,評価しなければならない。永続的か暫定的かを問わず,計画的な変更の場合は,変更を実施する前にこの評価を行わなければならない(8.1.3参照)。

 組織は,次の事項に関する文書化した情報を維持しなければならない。
 - リスク及び機会
 - 計画どおりに実施されたことの確信を得るために必要な範囲でリスク及び機会(6.1.2~6.1.4 参照)を決定し,対処するために必要なプロセス及び取組み

解 説

前半部分は、非常に複雑な構成の文章ですが、

労働安全衛生マネジメントシステムを作成する際は、
 ・外部・内部の課題(4.1)
 ・利害関係者の要求事項(4.2)
 ・適用範囲(4.3)
を考慮に入れること。

リスク及び機会を決定する際には、
 ・危険源(6.1.2.1)
 ・法的要求事項及びその他の要求事項(6.1.3)
を考慮に入れること。

の2点を要求しています。乱暴ですが、a)~c)は無視して構いません。

“リスク”と“機会”については、考え方はいくつかありますが、文字通り、
「リスク」= 好ましくない結果をもたらす出来事
「機会」 = 好ましい結果をもたらす出来事(リスクを低減させる出来事)
と捉えて結構です。

ただ、注意しなければいけないのは、リスク・機会がそれぞれ2種類あることです。

労働安全衛生リスク 現場作業に関連する(従来の)労安衛リスク
例)機械に手を巻き込むリスク、高所から落下するリスク
その他のリスク 労安衛に関連する経営上のリスク
例)非正規社員増加による安全風土・意識の衰退
労働安全衛生機会 現場作業に関連する労安衛リスクを低減する機会
例)新型安全保護具の導入
その他の機会 労安衛に関連する経営上のリスクを低減する機会
例)ISO45001取得による安全文化の醸成

“その他の”リスク及び機会とは、「事業上、経営上、会社全体の」という広い意味でのリスク及び機会を指します。

また、3段落目の“労働安全衛生マネジメントシステムの意図した成果に関わる”リスク及び機会は、“その他の”リスク及び機会に含まれます。

労働安全衛生マネジメントシステムの仕組みやルールを変更した場合には、当然、リスクと機会の内容が変わってきますので、改めてリスクと機会を決定し直すことを求めています。

ISO45001取得のポイント

【必要な仕組み・ルール】
6.1.1.の内容を大まかに労働安全衛生マニュアルに規定する。
【労働安全衛生マニュアルの記載例】
  1. 当社は、次の事項を考慮して、労働安全衛生マネジメントシステムを構築する。
      外部・内部の課題(4.1)
      利害関係者の要求事項(4.2)
      適用範囲(4.3)
  2. 当社は、労働安全衛生リスク(機会)及びその他のリスク(機会)を決定する。
      詳細な手順は、6.1.2.2、6.1.2.3 に規定する。
  3. …以下、省略

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6.1.2 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価
6.1.2.1 危険源の特定

 組織は,危険源を現状において及び先取りして特定するためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。プロセスは,次の事項を考慮に入れなければならないが,考慮に入れなければならないのはこれらの事項だけに限らない。
a)作業の編成の仕方,社会的要因(作業負荷,作業時間,虐待,ハラスメント及びいじめを含む。),リーダーシップ及び組織の文化
b)次から生じる危険源を含めた,定常的及び非定常的な活動及び状況
 1)職場のインフラストラクチャ,設備,材料,物質及び物理的条件
 2)製品及びサービスの設計,研究,開発,試験,生産,組立,建設,サービス提供,保守及び廃棄
 3)人的要因
 4)作業の実施方法
c)緊急事態を含めた,組織の内部及び外部で過去に起きた関連のあるインシデント及びその原因
d)起こり得る緊急事態
e)次の事項を含めた人々
 1)働く人,請負者,来訪者,その他の人々を含めた,職場に出入りする人々及びそれらの人々の活動
 2)組織の活動によって影響を受け得る職場の周辺の人々
 3)組織が直接管理していない場所にいる働く人
f)次の事項を含めたその他の課題
 1)関与する働く人のニーズ及び能力に合わせることへの配慮を含めた,作業領域,プロセス,据付,機械・機器,作業手順及び作業組織の設計
 2)組織の管理下での労働に関連する活動に起因して生じる,職場周辺の状況
 3)職場の人々に負傷及び疾病を生じさせ得る,職場周辺で発生する,組織の管理下にない状況
g)組織,運営,プロセス,活動及び労働安全衛生マネジメントシステムの実際の変更又は変更案(8.1.3 参照)h)危険源に関する知識及び情報の変更

解 説

“危険源”とは、危害を引き起こす恐れのある状況、活動・作業、設備・機械・器具のことを指します。「ハザード」とも呼ばれます。

危険源の一例として、a)~g)が列挙されています。

自社における危険源をあらかじめ特定する手順を定めることが求められています。

ISO45001取得のポイント

【必要な仕組み・ルール】
危険源を決定する際の手順を労働安全衛生マニュアルに規定する。
【労働安全衛生マニュアルの記載例】
  1. 各部門は、自部門における危険源を洗い出し、「危険源一覧表」に明記する。危険源に追加・変更が生じた場合は、「危険源一覧表」を改訂する。
  2. 危険源とは、以下のようなものを指す。自部門にあてはまらないもの、または、以下に挙げられていない自部門特有なものもあるので、洗い出しの際には注意すること。
  3.  (1) 作業全般(手順、時間、負荷、環境等)
     (2) 設備、機械、器具、原材料等
     (3) ポカ、疲労、体調不良、ハラスメント
    …以下、省略

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6.1.2.2 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクの評価

 組織は,次の事項のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
a)既存の管理策の有効性を考慮に入れた上で,特定された危険源から生じる労働安全衛生リスクを評価する。
b)労働安全衛生マネジメントシステムの確立,実施,運用及び維持に関係するその他のリスクを決定し,評価する。

 組織の労働安全衛生リスクの評価の方法及び基準は,後追いではなく先取りして,かつ,体系的な方法で行われることを確実にするため,労働安全衛生リスクの範囲,性質及び時期の観点から,決定しなければならない。この方法及び基準は,文書化した情報として維持し,保持しなければならない。

解 説

a)は、6.1.1の“労働安全衛生リスク”と同義です。また、b)も、同項の“その他のリスク”と同義です。

それそれのリスクについて、そのリスクの大きさを評価する手順を設けるよう求めています。

一般的に、リスクの大きさは、「発生する可能性×発生したときの被害の大きさ」で表されます。

「リスク評価」「リスクアセスメント」といったワードでググると色々な手法が出てくるので、自社の事情に合うやり方を決めてください。

ISO45001取得のポイント

【必要な仕組み・ルール】
リスクを特定し、評価する際の手順(だれが、いつ)を労働安全衛生マニュアルに規定する。
【労働安全衛生マニュアルの記載例】
  1. 各部門は、自部門の活動に関連する労安衛上のリスクを「労安衛リスク評価表」に特定し、評価する。
  2. 社長は、毎年度末に、労安衛に関連する経営上のリスクを「状況分析シート」に特定し、評価する。
  3. …以下、省略

6.1.2.3 労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会の評価

 組織は,次の事項を評価するためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
a)組織,組織の方針,そのプロセス又は組織の活動の計画的変更を考慮に入れた労働安全衛生パフォーマンス向上の労働安全衛生機会及び,
 1)作業,作業組織及び作業環境を働く人に合わせて調整する機会
 2)危険源を除去し,労働安全衛生リスクを低減する機会
b)労働安全衛生マネジメントシステムを改善するその他の機会

注記 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生機会は,組織にとってのその他のリスク及びその他の機会となることがあり得る。

解 説

a)は、6.1.1の“労働安全衛生機会”と同義です。また、b)も、同項の“その他の機会”と同義です。機会の具体例が述べられています。

それぞれの機会を評価する手順を設けるよう求めています。

“労働安全衛生パフォーマンス向上”とは、労災によるけがや疾病の減少、職場の福利厚生レベルの向上といった目に見える効果のことです。

ISO45001取得のポイント

【必要な仕組み・ルール】
機会を特定し、評価する際の手順(だれが、いつ)を労働安全衛生マニュアルに規定する。
【労働安全衛生マニュアルの記載例】
  1. 各部門は、自部門の活動に関連する労安衛上の機会を「労安衛リスク評価表」に特定し、評価する。
  2. 社長は、毎年度末に、労安衛に関連する経営上の機会を「状況分析シート」に特定し、評価する。
  3. …以下、省略

6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定

 組織は,次の事項のためのプロセスを確立し,実施し,かつ,維持しなければならない。
a)組織の危険源,労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに適用される最新の法的要求事項及びその他の要求事項を決定し,入手する。
b)これらの法的要求事項及びその他の要求事項の組織への適用方法,並びにコミュニケーションする必要があるものを決定する。
c)組織の労働安全衛生マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,継続的に改善するときに,これらの法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れる。

 組織は,法的要求事項及びその他の要求事項に関する文書化した情報を維持し,保持し,全ての変更を反映して最新の状態にしておくことを確実にしなければならない。

注記 法的要求事項及びその他の要求事項は,組織へのリスク及び機会となり得る。

解 説

a) 順守する必要のある労安衛関連の法規制や取り決めを特定し、入手する手順を定めるよう求めています。

b) “組織への適用方法”とは、特定した法規制・取り決めの具体的な内容(実施事項)のことです。

“コミュニケーションする必要があるもの”とは、社員への周知義務や役所への届出・報告義務があるもののことです。

c) 法規制や取り決めを考慮に入れて、労働安全衛生マネジメントシステムの仕組みやルールを作るよう求めています。

ISO45001取得/移行のポイント

【必要な仕組み・ルール】
順守する必要のある労安衛関連の法規制や取り決めを特定し、入手する手順を労働安全衛生マニュアルに定める。
【労働安全衛生マニュアルの記載例】
  1. 環境安全課は、労安衛に関連する法規制や取り決めを特定し、「労安衛関連法規一覧表」に明記する。
  2. 環境安全課は、監督官庁や業界団体からの案内、業界新聞・雑誌等を通して、常日頃から労安衛関連法規・取り決めの新設・改廃の動向に注視する。
  3. 環境安全課は、新設・改廃された労安衛関連法規があれば、「労安衛関連法規一覧表」を都度(及び年度末に)更新する。
  4. …以下、省略

6.1.4 取組みの計画策定

 組織は,次の事項を計画しなければならない。
a)次の事項を実行するための取組み
 1)決定したリスク及び機会に対処する(6.1.2.2 及び 6.1.2.3参照)。
 2)法的要求事項及びその他の要求事項に対処する(6.1.3参照)。
 3)緊急事態への準備をし,対応する(8.2参照)。
b)次の事項を行う方法
 1)その取組みの労働安全衛生マネジメントシステムのプロセス,又はその他の事業プロセスへの統合及び実施
 2)その取組みの有効性の評価

 組織は,取組みの実施を計画する際に,管理策の優先順位(8.1.2参照)及び労働安全衛生マネジメントシステムからのアウトプットを考慮に入れなければならない。

 取組みを計画するとき,組織は,模範事例,技術上の選択肢,並びに財務上,運用上及び事業上の要求事項を考慮しなければならない。

解 説

以下についての取組計画を作ることが求められています。
  • 決定したリスク・機会
  • 労安衛の法規制や取り決め
  • 緊急事態への準備や対応

b)2)に “その取組みの有効性の評価” とありますが、これは、「取組みがうまく行ったかどうかの判断基準を、取組みの計画時に決めておくように」という意味です。

取組計画がうまく行ったかどうかをどう判定するのか?それをあらかじめ明確にしておくことで、PDCAのC(チェック機能)をうまく働かせることが狙いです。

ISO45001取得/移行のポイント

【必要な仕組み・ルール】
決定したリスク・機会、労安衛の法規制や取り決め、緊急事態への準備や対応等に対する取組計画を作成する手順を労働安全衛生マニュアルに規定する。
【労働安全衛生マニュアルの記載例】
  1. 労安衛部長は、毎年度末、次の事項に対する取組計画を「労安衛管理計画書」に立案し、社長の承認を得る。
    (1) 決定したリスク・機会
    (2) 労安衛の法規制や取り決め
    (3) 緊急事態への準備や対応
  2. なお、「労安衛管理計画書」では、取組計画がうまく行ったかどうかの実績評価も含める。
    …以下、省略

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