「文書」と「記録」の違いについて復習してみましょう。「文書」とは仕事のやり方を定めたマニュアルや規定、手順書、未記入の様式(要はフォーマット)といったものです。

仕事のやり方や手順が変われば、当然「文書」も変更(改訂)されます。変更された「文書」はしかるべき立場の方の承認を得て配付されます。

一方、「記録」とは、仕事の結果を記入したもの、すなわち記入済みの様式や用紙を指します。仕事のやり方や手順が変わっても、既に行った仕事の結果を記入したものなので、その内容を変えようがありません。変えてしまえば、それこそ記録の改ざんになってしまいます。

ISOで言う承認とは、変更や新設に対する許可という意味合いです。
従って、記録の承認という考え方は、実は、そもそも存在しないのです。

これは、よくみかけるマニュアルの承認欄です。

承認欄1

マニュアルは「文書」です。鈴木社長がその内容を承認した上で発行したことを示しています。これは問題がありませんが、次はいかがでしょう。

ある機器の作業前点検簿です。

承認欄2

この場合、作業担当者が点検した結果を部門長が確認するという趣旨で承認欄を設けています。

でも、これでは点検結果という「記録」を承認していることになります。ISOはそんなことまで求めていません。

取り扱いに細心の注意を要するような超精密機器ならば、点検記録に上司の承認がないと使用できないというのもわからくはないですが、実際にそんな機器なんて存在するのでしょうかね?

ISOの書籍やサンプル集を見ると、様式の端にこんな承認欄がくっついているものばかりなので、自社の様式もなんとなくそれに倣ってしまったのです。

では、あなたの会社のISOはいかがでしょうか?
文書と記録の承認がごっちゃになって、やたらと様式に承認欄が設けられていませんか?

「新入社員じゃあるまいし、何でこんな書類までいちいちハンコをもらわなきゃならんのだ…」
こんな中堅社員の声が聞こえてきそうです。まともにやっていたのでは仕事が先に進まない。

山ほど溜め込んでから上司に提出する。ハンコを押す上司もメクラ判になってしまいますよね、これでは…。

繰り返します。ISOでは記録の承認は一切求められていません。

それでも、記録を確認するという意味で承認欄を残したいなら、もっと種類を絞り込んだ方が良いと思います。

・部下から上司に必ず報告させたいこと
・部下の仕事振りについてきちんと上司に把握させたいこと
・ISO上、しかるべき役職者がその結果を確認する必要があるもの

この三つの視点から、上司が確認する記録様式を、一度見直してみてはいかがでしょうか?